これはお電話で一番多いお問合わせの内容です。珠算塾選びでフラッシュ暗算を重視されている方が多いようです。テレビでもよく取り上げられ、たしかに一目で「スゴイ!」と分かりやすいですよね。冒頭のご質問に「ウチはやってないです。」とだけお答えすると、「あー・・・そうですか、じゃあいいです。」となります。 他の珠算塾では、「フラッシュ暗算」と大きく外に貼り出しているところも少なくないようです。皆さまご存知の通り、当校はフラッシュ暗算は採用していません。もちろん、ちゃんとした理由があります。過去に当校のいくつかの教室で十分に試行も行った上での判断です。 もし仮に、しつこいですが、あくまでも「もし」、私たちに「楽に授業をしたい」という思いが少しでもあれば迷わず採用していました。授業する側としては、すごく楽な時間を確保できます。 集団で一斉にやる場合はゲーム感覚でワイワイと楽しいし、生徒一人づつパソコンの前に座らせても、しばらくは集中してやります。保護者様からも好評価をいただけ、更には入会いただける方も増えるかもしれませんし、コストもさほどかかりません。いいことばかりのような気がします。・・・しかし、私たちが最も大切にしているのは「短期間で高度な暗算力を身に付ける」ことです。それを第一の優先基準で判断しなければならないと考えています。 【注意:フラッシュ暗算、並びに、フラッシュ暗算採用塾の指導を否定している訳ではありませんので、誤解無きようお願いします。当校の授業における教材としての評価です。】
「フラッシュ暗算をやらせたい」とおっしゃる複数の保護者様にその理由を伺ったことがあるのですが、ほとんどの方が勘違いされているようです。画面にパッ!パッ!と出る数字を見る練習をしていれば、そのうちに瞬時に暗算ができるようになるとお考えのようですが、これは誤った認識です。フラッシュ暗算も計算そのものは、「そろばん式暗算」で行います。
ここで、「そろばん式暗算」についてご説明します。「そろばん式暗算」は、珠算業界では一般的に使われている言葉です。ひとことで表現すると、画像イメージで計算することです。具体的には、頭の中のそろばん画像の珠を動かし計算します。一方、そろばん未習得の人は言葉で計算します。「言語計算」とも言えます。例えば、「18+8」は「じゅうはち たす はち」と言葉に変換し、「十繰り上がるから・・」と考えながら計算します。他にも計算条件によって一定パターンでやる計算も「言語計算」と言えます。一昔前に流行った「インド式計算」はじめ、「言語計算」は世界中で数多くの種類がありますが、完全な「非言語計算」はそろばんが唯一と言えるほどレアだと思います。 よく「そろばんは右脳にいい」と言われていますが、実際、右の絵のようにそろばん上級者が右脳を使って計算していることは学術的にも証明されています。同じ計算でもそろばん上級者と普通の人とでは、異なる脳の場所を使っているんですね。 「言語計算」は、数字をいちいち言葉に変換し、それを記憶しつつ思考しなくてはならず、時間がかかり、間違いが発生しやすい方法です。桁が増えると記憶が追い付かず、計算することすらできません。一方、右脳を使ってイメージ処理する「そろばん式暗算」は、コンピュータ処理のように速く、正確です。大きな桁でも同じように計算することができます。 だから、「そろばん式暗算」は最強の計算方法と言えます。 また、右脳訓練によって、脳全体の働きを強化できるメリットもあります。特に学校の勉強は左脳中心なので、偏ってしまいがちですが、そろばんの訓練をすることでバランス良く脳が成長します。「そろばん始めて算数以外の教科も成績が上がったよ!」と本当に多く聞きますが、偶然ではないと思っています。受験でも「そろばんの練習を続けてたよ」という生徒は合格率が高いようにも思えますが、計算力の問題だけでは無いように思えます。 高学年からそろばんを始めると、初級まではあっという間で、中級で壁にあたるケースが多いのですが、これは「言語」から「非言語」への脳のシフトに時間がかかるためです。その際、保護者様から「ウチの子全く伸びなくなって・・・」とお話を伺うことがありますが、あきらめないで取り組むことで必ず成果が出ます。どうか焦らず応援してあげてください。
話を元に戻します。フラッシュ暗算も「そろばん式暗算」の練習法の一つであり、フラッシュそのものが暗算力を強化する訳ではないことはご理解いただけたと思います。 では、通常の暗算演習とフラッシュ暗算の違いがどこあるのでしょうか。大きく三つあると思っています。 一つ目は「目の使い方」です。確かに、一瞬画面に表示される全ての数字を読み取るのは目を鍛えることになります。ただ、通常の暗算はもちろん、珠算でも目を鍛えるのはとても大切で、当校では重視しています。珠算でも暗算でも、数字を瞬時に読み取る力が無ければ上級で歯が立たなくなります。当校では演習はもちろん、答合わせの際も時間を厳密に区切って、数字を瞬時に読み取る、目を鍛える訓練、その指導を行っています。フラッシュでは一度に多くの桁を読み取りますが、実際に、そろばんの達人クラスの人の多くは数字を分割して認識・計算処理します。例えば9桁なら3+3+3桁(人によっては4+5桁)という具合です。勉強や仕事のシーンで役立つ実戦的な目の鍛え方は、限られた時間なら演習の中で鍛える方が数をこなせ、効果的だと考えています。 二つ目は、演習が受動的か能動的かです。フラッシュは受動的で通常の演習は能動的な取り組みです。経験上、受け身の練習方法は時間経過と共にモチベーションが下がる傾向にあります。自ら意識してスピードアップを目指した方が質も高くなります。 三つ目は、指導する側の視点ですが、生徒の頭の中で本当に「そろばん式暗算」をやっているか、筆算していないかのチェックです。紙に書いた問題だとどうしても筆算できる生徒は筆算でやってしまいがちです。それを見つけ出して是正させないと演習の意味がありません。フラッシュは紙上に数字が残ってないのでそのチェックが可能ですが、フラッシュを使わなくても、「読上げ算」でチェックすれば容易に判別することができます。 更に、これらの検討、仮説を検証するため、3校ほどでフッラシュ暗算の試行をいろいろと条件を変えて、しっかりやりましたが、通常の演習の方が成長が明らかに早いという結果でした。 結論としては「限られた授業時間を有効活用するため、フラッシュではなく通常演習の質向上に注力する。有料・無料ソフトも多くあるため、興味ある人は個別に楽しんでもらう」です。 「短期間で高度な暗算力を身に付ける」・・・この目標のために今後も渋谷そろばん教室が進化し続けるよう努力します!