4号ここ一番で力を出し切るには

  よく「本番に強い」とか言いますよね。本番になると実力以上の力を発揮する人、反対に、普段の半分もできない人もいます。その人の「得意分野」かどうかは関係無く、勝負強い人は何をやっても常に勝負強い、逆も同じで明らかに個人差があるのは皆さん同じ認識だと思います。 「本番に強い」=受験やスポーツ、ビジネス・・・など、人生を左右するようなシーンで結果に直結するとても重要なことです。

本番に強い弱い

  そろばんでは、検定試験が勝負所ですが、本番に強い生徒は、いつも強いし、やはりスポーツ等の他の分野でも同様に力を発揮できているようです。
  私たちが多くの生徒を見て感じるのは、「本番に強い」は、「生まれ持っての才能や性格に関係無い」ということです。本番に強い生徒とそうでない生徒にはそれぞれ共通点があるからです。本人の能力ではなく、生活環境が最も深く影響しています。それが何か、なぜなのかを理解できれば本番に強くなることは可能だと考えています。テクニック的なことではなく、感情に関わることなので、ご説明が少し長くなりますが、重要なテーマですので、最後までお読みいただければと思います。

カンニングをする生徒

  驚かれると思いますが、実は、「カンニング」をする生徒は、幼稚園生から高学年まで、どの教室でも必ず一定割合でいます
  教壇に立つと、新人講師でも生徒数に関係無く生徒ひとり一人が本当に手に取るようによく見え、答ページを書き写していたリすると、すぐに分かります。検定本番のカンニングは不可能です。日々の演習でのことです。本人は不真面目にやろうとしている訳ではなく、注意すると「悪いこと」と分かっていて辛そうです。演習でズルをして良い点取っても仕方無いのも本人は分かっています。何のメリットも無いのになぜそんな辛い想いをしてまで「カンニング」をするのか、不思議ではないでしょうか?
生徒本人に理由を聞くと、「点が悪いと・・・、お母さんが(ママが)・・・」という感じです。カンニングまでいかなくても、答合わせで誤答なのにあえて丸を付けたりする生徒はもっと多く、演習時間残りわずかで未解答が多いとシクシクと泣き出す生徒も少なくありません。理由を聞くと、これらも同じく「お母さんが・・・」です。「・・・」に入る言葉は大きく2種類で、一つは、「怒る」などの恐怖心で分かりやすいのですが、もう一つは意外にも「期待に応えたい」的なことです。後者の方が圧倒的に多いです。カンニングは最も極端な行動ですが、そこまでいかなくとも、このように、いわゆる「強迫観念」的なものを内側に抱えている生徒が実に多いのです。もちろん基本は皆元気で明るいので注意して見ないと気付かないレベルです。感覚的には軽い状態も含めると、その割合は生徒の半数は優に超えていると思います。

「嬉しい」と「楽しい」

  当校ホームページの「指導方針」にも少し書いてありますが、「嬉しい」と「楽しい」の違いについてです。以下、まずは自論では無く学術的な話の引用です。
  ●「嬉しい」=何かを得て感じること。
(例:ほめられた、認められた、受験で合格した、徒競争で1番になった、今度旅行に行く・・・など)
言い換えると「条件付き」で感じることです。
  ●「楽しい」=無条件に感じること。 ドロんこ遊びなど、意味も無く、何も得ることが無くても何かしていると自然に湧いてくるものです。心がリラックスしていないと感じられません。
  「嬉しい」は、「○○できたら嬉しい」ということなので、そのために頑張れる、目的意識の元にもなる大切な感情です。それと同時に、無意識のうちに、必ず「○○ができなかったらダメ」と反対の条件がセットで付くので、責任意識にもなります。ただし、気を付けなくてはならないことがあります。「嬉しい」ばかりを追い求めると、いつの間にか、反対の条件が「強迫観念」に変わります。例えば、Aさんに誉められて嬉しかったという出来事があると、また誉めてもらいたくて意識して行動するようになり、Aさんにどう思わるかが気になるようになります。そればかりを気にしていると、次第に、誉めてもらっていない普通の状態が不安になってきます。少なからず、誰しもこのような経験があると思います。この悪循環にハマると、たとえ誉めてもらっても嬉しいのは一瞬あればいい方で、常にどこか不安で緊張した強迫観念を抱えている状態に陥ります。そして、これが続き、定着してしまうと、「楽しい」と感じることができなくなってしまうそうです。「楽しい」は本当にリラックスした状態でしか感じられないからです。何をするにも「人にどう思われるか」という見方になります。例えば、友達・・・一緒にいて楽しい人よりも、居心地が悪くても人に自慢できるような人を選ぶようになる、など判断の土台になります。そして、人目を気にするあまり、徐々に自分自身が本当は何を望み、何をしたいかさえも分からなくなるそうです
  「本番に強い」の前提は、持てる力をフルに発揮できる状態でいることです。人はリラックスした(恐怖に包まれていない)状態で最も能力を発揮できると言われています。もし、「嬉しい」に過剰に偏りすぎるとリラックスとは正反対になり、どう頑張っても力を発揮できません。無意識に「できなかったら・・」とどこかで感じている状態です。よくスポーツ選手が「楽しんで」と言いますが、このような意味を含んでいるようです。

当校の指導方針

  これをそろばん指導に当てはめると、教室で講師が「成果が出た時だけ誉めて」いると(=「嬉しい」を刺激)、最初はよくても、そのうち進級が遅い生徒はもちろん、順調な生徒も含めて教室全体の空気が重苦しくなり、全体的に進級が停滞するようになります。反対に、得点や進級のことを言わず、ただ「楽しい」雰囲気だけ心掛けていると、目的意識や良い意味での緊張感も無くなり、ダラけた空気、ひどくなると立ち歩きなどで教室が荒れてきて、同じく進級が停滞します。「楽しい」・「嬉しい」、どちらに偏ってもダメだということです。
  では、どうなればいいのでしょうか? 技能面と違い、人の感情のことなので、「こうすればこうなる」と論理的にはいかないのですが、私たちは次のように考えています。

楽しいの土台があっての嬉しいをつくる

  この方針によって、当校生徒の「勝負強さ」はずいぶん変わりました。この基本方針を定める前(2年ほど前)より検定合格率は、大きく向上しました。(それ以外も含めたポイントは欄外↓)。これは「本番に強く」に限らず、継続して成長するためには重要な考え方だと思っています。もちろん、そろばん以外のどの分野でも通用すると思います。
  ただし、現状で満足していいとは全く思っていません。先に「カンニング」の項で述べたように、全体では、まだまだ強迫観念の方が強い(=本番に弱い)と感じているからです。生徒にもっと力を発揮してもらうように私たちも努力を続けますが、入会時点で既に「嬉しい」に偏っている生徒が大半を占めるのも事実ですし、週1~3時間の授業だけで本テーマに立ち向かうのは現実的にかなり無理があります。ご家庭でのご支援が一番キーになりますそこで、最後に保護者様へのお願いです。
【基礎】本番に強くなるには(本テーマ外も含め)
①心の基盤を整える(本記事の内容)
  力を発揮するにはリラックスが必須。普段から心の基盤が恐怖ではなくリラックスになるように。
(これが無いと②③は無駄)
②練習を積み重ねる
  同じ実力でも練習量が多い方が力を発揮する。(たとえ本番で緊張しても力を発揮しやすい)
③本番シミュレーションをする。
  できる限り、本番と同じ状態を作り、事前にそれを繰り返す(問題、時間、メンタル、環境)

保護者様へのお願い

  今回のテーマは「本番に強く」でしたが、昔(昭和)に比べ、全体的に「本番が苦手」なお子さまが増えているように感じています。これは個人の資質によるものではなく、現代の幼児、児童の生活環境が「嬉しい」に偏りやすいことが要因ではないでしょうか。息つく暇も無いほど多くの習い事をしている生徒がほとんどで、親御さん視点では、習い事の数だけ成果を求められるでしょうし、特に当校のエリアは、小・中学受験も多く、進学系学習塾の「合格するためには、親御さんも一緒になって勉強してください。」という方針より、お子さまの結果を常に詳細に知ることで、誉める時は成果が出た時に偏りがちになったりと、親御さんに全くそんな気は無くとも、お子さまは「成果を出したら誉められる→成果が出ないと認めてくれない」と受け止め、どこかで不安を感じていることが多いように思えます。
  そろばん習得に関しては、以下3点について、ご家庭のご協力を賜りたく、お願いいたします。
一、ログノートは毎回、目を通していただく
  生徒がつける演習の計画と記録ページです。親御さんがただ見るだけでモチベーションが上がります。
二、ただし、進捗や点数を「評価」しない
  級が上がって序盤の演習は空欄が多かったり、誤答が多かったりするのは当然です。算数の感覚で見て、親御さんが不安になることが多いようです(問合せがとても多い)。進級した時は大いに誉めてほしいのですが、それ以上に「頑張っている」「継続している」こともあえて言葉にして誉めてあげてください。
三、自宅演習はサポート役に徹する
  そろばん経験の有無に関わらず、宿題していたら教えたくなると思いますが、そろばんは運指や計算方法、リズムが大切です。当校は上級まで体系立った技能標準があります。ご家庭で教わって一時的に点が上がっても違うやり方が身に付いて結果的に遠回りになる事も少なくありません。タイムを測るなどサポート役に徹してください。
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